ゆみしま日記

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zoom RSS ブックレビュー「3001年終局への旅」

<<   作成日時 : 2006/05/15 22:45   >>

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”どのような神的あるいは霊的存在が星のかなたに
ひそんでいようと、平凡な人間にとって重要なことは
二つしかない---<愛>と<死>だけだ。”


(注意:ネタバレを含みます)
いきなり始まりましたブックレビュー。ご存知の方が少ない
本だと思いますが、いないからこそ簡単でも紹介して
おきたいものです。もっとも、SFファンの方にはメジャーな
タイトルでしょうが・・。
「3001年終局への旅」アーサー・C・クラーク作、伊藤典夫訳、
97年早川書房より発行。文庫版あり。

タイトルを見て、ピンと来た方もいるかもしれません。そう、
あの鬼才キューブリック監督の伝説の映画「2001年宇宙の
旅」の原作の続編にして最終作です。ちなみに原作の小説は
「2001年〜」「2010年〜」「2061年〜」(全て既読)とあり、
この「3001年」は4作目です。オデッセイシリーズとも
言われたりしますが、おそらくこれが最終作でしょう。
クラークは高齢で、最近は他の作家との共作が多いですしね。

映画についてはあまりにもたくさんの論評がありますので
ここでは触れません。原作の小説「2001年宇宙の旅」は
難解と言われた映画をわかりやすく解説し、それゆえに
映画の神秘性が薄れた、などとも言われましたが私は
小説を先に読んでから映画を見たので、どちらにも感銘を
受けましたし、小説のほうが好きかもしれません。

「2010年」「2061年」は巷でも言われるとおり、段々普通の
SFっぽくなったとされ、あまり評判は高くありません。
私も2010年は印象的だったものの、2061年は2001年の
持っていた荘厳さに欠け、ごく身近な話になってしまった
ようにも思えました。しかしシリーズとおして大好きな
作品ではあります。

前置きが長いですね。3001年もやはり最終作にしては
物足りない、神秘性に欠ける、期待はずれだったという
声が多く聞かれ、これも残念ながら評価はいまひとつです。
ですが私は2001年の次に3001年が好きなのですね。
2001年で示された、神(人間から見れば桁違いの力を
持つ存在)によって神に近い存在になる人類というのは
空恐ろしくもあり、私にとっては後味の悪いラストでも
ありました。「それで本当に幸せなのか?」というありふれた
感想がつい出てしまうのです。クラークの描く「超人類」と
いうのは、そんな人間の感情のような不安定なものに
左右されない存在であり、だからこそ超人類なのですが、
平凡な人間にしてみれば羨みと同時に哀れみの対象
でもあります。

3001年ではその人間らしい感情をわずかながら残していた
超人類・ボーマン(「2001年」で超人類になった元人間)が
「わが身を犠牲にして」人類を救ってくれます。こう書くと
やや俗っぽい筋書きですね。もっとも人間にはそう解釈
できるだけで、彼にはまた違った観点があったのかも
しれませんが、そこは述べられていません。あくまでも
読む人間の想像です。最後は人間が神的存在の手を
離れ、人間だけの力で「独り立ち」しようとするところで
終わります。

冒頭の「平凡な人間にとって重要なのは愛と死だけだ」と
いう文はラストもラスト、この本のメインキャラのプール
(彼は出番は多いですが単純に主人公と言ってよいかは
やや迷うところ。本当の主人公は出番が少なくともボーマン
(とHAL)なのかもしれない)のモノローグです。
この文章が好きなのです。まさしく人智を超えた存在が
遠い彼方にいることを知りながらも、平凡な人間にとって
大事なものを確信し、プールは「人間らしく」生きていこうと
するのです。神のような力を手に入れることよりも、もっと
価値のあることがある。それが「愛」と「死」だ。
私にはそう言っているように思えました。

人間らしく力強く生きていこう。よりよい未来を作るために。
そんなメッセージをもらった気がして、非常に感動したもの
です。クラークの狙いが別のところにあったにしろ、これを
発売当時読んだ私はそう感じました。
実際クラークは現実社会での世界情勢への懸念のような
ものもあとがきで示しているので、それも心に残りました。
こんな読み方をしている人は少ないかもしれませんが・・。

気が向いたら、SFに興味があって未読だったら、読んで
ほしい本です。4作読むのがベストですが、それが厳しい
なら2001年だけでも。もう少し言えば2001年と3001年を。
SFといっても難解すぎることはないです。私は本格SF
ファンというわけではないし、専門的な用語にも詳しく
ないです。SF要素が好き、という程度です。そんな私でも
楽しく読めました。クラークは難解なテクノロジーをわかり
やすく書いてくれるので、読みやすいのです。
クラークと言えば、もう一つの代表作「幼年期の終わり」も
非常に印象に残った一冊ですが、また機会があれば
そちらも触れたいと思います。

長文にお付き合い頂き、ありがとうございました。

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コメント(2件)

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神秘性が無くなって私は逆に高く評価します。神のような高次の存在の宇宙人や超人類を出すのはクラークの欠点だと思ってます。
ゴルディアス
2006/08/18 17:37
確かに、高次の存在が出てくると
SFなのに・・と興ざめしてしまう
というのはありますね。
高次の存在というアイディア自体は
読んだ当時衝撃を受けたものですが。
ゆみしま
2006/08/18 21:41

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