ゆみしま日記

アクセスカウンタ

zoom RSS ブックレビュー「スローターハウス5」

<<   作成日時 : 2008/06/11 22:37   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 0

スローターハウス5 (ハヤカワ文庫 SF 302)
「大量殺戮を語る理性的な言葉など何ひとつない」
本書の前書きにあたる部分に書かれた印象的な言葉。
「スローターハウス5」は、カート・ヴォネガット・ジュニア作のSF小説。
SF小説と単純に言い切るのはやや抵抗もある内容だけれど、
じゃあジャンルは何かと聞かれたらやっぱり私はSFと答えてしまう
だろう。人の死、諦観、無常。そんな言葉がよく似合う。

タイムトラベルと、ドイツと、近現代史が好きな私にとっては、この本は
とても興味深いものに思えた。
主人公のビリー・ピルグリムは、アメリカ人。第二次大戦でドイツに
送られ、そこでドイツの美しい街・ドレスデンの爆撃に遭遇する。
ドレスデンの無差別爆撃は1945年2月13日から14日にかけて行われ、
連合国軍の爆撃機が高性能爆弾と焼夷弾で街を壊滅させた。
死者の数については諸説あるそうだが、本のあとがきによると、
13万5千人という数字が公式とある。
連合国側は1963年までこの事実をひた隠しにしていたとも。

ビリーは「けいれん的時間旅行者」の能力を持っていて、あるときは
そのドレスデンで捕虜生活、あるときは幸せな結婚生活を送り、
トラルファマドール星人に誘拐され、異星の動物園に入れられ(!)と
瞬間瞬間で様々な時間と場所に現れている。本もその都度場面
転換してあちこちでのビリーの生活を垣間見ることになる。
色々な時と場所を旅しながらも、いつも彼の心は壊滅の時を迎えようと
するドレスデンに戻っていく。ビリーを誘拐したトラルファマドール星人は
4次元的思考を持っていて、彼らによれば、「死んだものは、この特定の
瞬間には好ましからぬ状態にあるが、ほかの多くの瞬間には、良好な
状態にあるのだ。」と。
トラルファマドール星人が死体を見て言う言葉、それは
「そういうものだ(So it goes.)」
恐ろしい無差別爆撃も、そうやって「そういうものだ」と言って乗り越える
しかないのだろうか?

この「そういうものだ」という言葉は作中、人や動物など、生き物が
死ぬ描写のあとで必ず出てくる。3次元的思考の人間としては
異星人のように、簡単に「そういうものだ」と割り切ることなど
到底出来ないが、そうするしかない、そうすることしか出来ない。
諦観でしか悲しみや苦しみを乗り越えることは出来ないと
示しているのかもしれない。
作者のヴォネガットは実際にドレスデンの爆撃に遭遇している。
彼はドイツ系移民4世ということもあってか、この爆撃に対して
何か書かずにはいられなかったようだ。声高にストレートに
戦争への怒りを書くのではなく、こんなちょっとひねくれた書き方で。
彼はドレスデンについてインタビューで聞かれたとき、「覚えていない」
と語ったそうだ。もちろん本当に覚えていないなんてことはない。
きっと、安っぽい言葉でドレスデンのことを語るのをよしとしなかったのだ。
自分がドレスデンについて言いたいことは全部この本に書いてある。
そう言いたかったのではないか。

起承転結がはっきりしているわけでもないし、ドラマチックな構成でも
ない。場面があちこちに飛ぶので最初はちょっと混乱するかも
しれない。登場人物は魅力的でなく、不快さを感じさせることのほうが
多い。ラストもきちんと終わっているかというと、これで終わりとも、
まだ続いてもよさそうな終わり方でもある。構成は複雑だし、出てくる
トラルファマドール星人の思考は難解だが、文章自体は読みやすいので
ちょっとコツをつかめばスラスラ読める。万人受けするとはとても思えない
本なのだけれど、出てくる4次元的思考には考えさせられる。
実際こんな思考を完全に理解することなど出来ないが、こういう考え方も
あるのだと。こう考えるしかなかった時代がそう遠くない昔にあったのだと。

冒頭に引用した言葉、「大量殺戮を語る理性的な言葉など何ひとつない」
そう、理性的に語れないなら、人はどうやって無意味な、無差別な死の
悲しみを乗り越えればいいのか?
もしかしたらその問いに一つの答えを出しているのかもしれない。
現実に大量殺戮に立ち会った者にしか持ち得ない思考かもしれない。

ここまで書いてみて、レビューというにはあまりにも抽象的な内容で
あることを感じる。漠然とした紹介で申し訳ないけれど、この本に
ついては、とにかく自ら読んで考えるしかない気もする。
好みは分かれると思うけれど、そんなに厚くないので機会が
あったらぜひ読んでいただきたい本である。図書館で借りるとか。

余談ながら、ドイツ・ドレスデンは、現在では爆撃から奇跡的に復興し、
昔のような美しい街に再生しているそうだ。いつか行ってみたいと
思いながら。
スローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
【ブックレビュー】についてブログや通販での検索結果から見ると…
ブックレビュー をサーチエンジンで検索しマッシュアップした情報を集めてみると… ...続きを見る
気になるワードを詳しく検索!
2008/06/12 14:51

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
ブックレビュー「スローターハウス5」 ゆみしま日記/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる