ゆみしま日記

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zoom RSS ジルオール インフィニットSS「ウインド・シア」

<<   作成日時 : 2006/01/09 16:29   >>

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「ウインド・シア」

 エルズの奥深く、墓地を抜け長い階段を昇りきり、魔物の徘徊する
彫刻の間をくぐり抜けることが出来た者は、自らの過去・未来を
知ることが叶うと言う。
そこには、天地千年を見通すエルズの女王にして風の巫女、エアが
いるからだ。風の神殿は一般人が行くにはかなり危険な場所だが、
来訪を拒んでいるわけではない。自分の未来を知りたいという者に
門戸を閉ざしているのではない。ただし、エアに自分の運命を
教えてもらうには、エアが予言を与えるに足ると感じた者だけだ。
予言を私利私欲に利用しようとエアのところに行った者は、必ず
エアの怒りを買う。
 
 それに、エアの予言はあいまいなことも多く、予言で人生の
指針が得られるかと言えば、そううまくはいかない。
エアは予言を与えるが、解釈なでは与えてくれない。
予言の意味は自分で判断するしかないのだ。
結局は自分の力に頼るしかないのか・・。
そう悟り、肩を落として帰っていく者も多いという。
しかし、実際に予言を与えられた者は少なく、他国ではその神秘性
からエアの予言に憧れる者、恐れる者も多い。
対照的に、エルズの人々からは、エアはこの地に平穏をもたらす
偉大な女王として敬われている。

 エアは、風の神殿で暮らしている。そばには偉大なる竜、翔王が
おり、その巨大な姿を見た者は誰でも恐怖を覚えずにはいられない。
エアには身の回りの世話をする巫女たちが何人かついているが、
それは必要最小限の時だけで、通常はほとんど翔王とのみ過ごして
いる。エアは今日もまた、翔王と一緒に神殿にたたずんで、今日
耳にした噂について考えていた。
「エア、何を考えているのだ。」翔王はずっと黙り込んでいたエアに
尋ねた。
「翔王様は、このエルズの女王たるわらわが民の噂に心を惑わされて
いると知ったら滑稽に思われるか?」
「また、珍しいことを。一体どのような噂を耳にしたというのだ。」
翔王はいぶかしげに思った。エアが下世話な人間の噂話を気にする
とは、どうしたのだろうか。
「エルズの民や、他国の者は、このわらわが人間嫌いで人と
会うのを嫌がっているというのだ。だからめったに人に会わぬし
神殿から出ずひっそり暮らしていると。」
エアの表情は晴れなかった。
「それがどうしたというのだ。風の巫女エアが神殿にこもり、
限られた人間としか会わぬのは今に始まったことではあるまい。
予言を理解できぬ愚かな者にむやみに予言を与えることの
恐ろしさはそなたもよく知っていることであろうに。
それは代々の「エア」の記憶を引き継ぐそなたなら先刻承知のはず。」
翔王には、エアがなぜそんなくだらぬ噂を気にしているか理解
できなかった。
「わらわは、決して人間嫌いでもないし人と会うのも嫌いではない。
確かにわらわは限られた者にしか予言を与えぬし、与えたとしても
あいまいに解釈できるような言い方をしておる。だから、エアの
予言は聞いたところでたいして役には立たぬと陰口を叩く者が
いるのも知っておる。だが、そうではない。」

 ここでエアは話を切って、考え込み、また口を開いた。
「わらわは民に余計な希望を与えたくないだけなのじゃ。
余計な絶望もな。予言を与えるのは、その予言を正しく理解し
行動することができる者に対してだけじゃ。もしはっきりと
そなたは明日死ぬと予言してみよ。その者はただ絶望を感じて
死を待つのみじゃ。そなたは莫大な富を手に入れる、と予言した
ところでやはりたいしてよい結果にはならぬ。その者だけは
希望と幸福を感じるかもしれぬが、他の者は自分にもそういった
僥倖が訪れるのではと余計な希望を抱き、このエアの予言を
求めることじゃろう。しかし多くの者には僥倖など訪れぬ。
平凡な人生を予言された者はこのエアを恨み、成功した者を
妬む。わらわは僥倖を与える者ではない。ただ事実を告げる
だけの存在じゃ。しかし多くの者はそれを理解できぬ。」
一気にエアは語り、そして黙り込んだ。

 翔王は聞いた。
「エアよ、そなたは自分の力が呪わしいのか?誰もがうらやむ
その予言の力、天地千年を見通すその力が。だとしたらそなたは
民から一層妬まれるであろう。強大な力を持つ者がそのような
ことを思ってはならぬ。民はどうにかしてその力を手に入れたいと
願っておるのだ。無理な話ではあるがな。そなたには風の巫女と
しての使命がある。それはなんとしても果たさねばならぬ。
なんとしてもな。分かっておるだろうな、エアよ。」
翔王の眼差しが厳しくなったのをエアは知ってか知らずか、
エアは誰ともなしにつぶやいた。
「強大な力を得る者は、代わりに何か大切なものを犠牲にするの
かもしれぬ。今までのわらわは、何を引き換えに失ったのかなど
考えることもなかった。こんなことを思うようになったのも、
未来を見通すことのできぬ者が現われたからじゃ。無限のソウルを
持つ者・・・。代々のエアの記憶にはあるが、今のわらわは会った
のは初めてじゃ。」
エアはそう言って神殿を出て行った。いつもの散歩なのだろう、翔王は
黙って見送った。

 翔王はエアの姿が見えなくなると、つぶやいた。
「エア、代々の風の巫女の記憶を受け継ぐ者よ。そなたはこの世に
生を受けて未だ7年余・・。若く未熟とはいえ、先ほどの言動は
どうしたことだ。己に与えられた強大な力を疎ましく思うとは。
愚かな人間にはよくあることだ。だが、ラドラスの巫女たちは
愚かな人間とは違うはず。代々のエアもそんなことを思う者など
いなかった。どうしたことだ・・。あの無限のソウルを持つ者・・
エレンディルといったか。まだ幼さの残る娘だったが・・・。
あの者、もしかしたらエアや我にとってはよからぬ存在となるかも
しれぬ。しかし・・。無限のソウルを持つ者自体は乱世には必ず
現われた。剣聖イグザクスもそうだった。代々のエアも無限の
ソウルを持つ者とは幾たびも出会ってきたものだが、今度の
無限の魂は、その中でも特別な存在となりうるのかもしれぬ。
情けをかけ、次にこの神殿に現われたときには警告しておく
ことにしよう。エアに近づかぬが己のためと心得るがよい。」
翔王はそう言って、目を閉じ、瞑想に入った。
神殿に厳かな静寂が訪れた。

 エアは神殿の外に出て、一人歩きながら考えた。外はもう夜の帳に
包まれ、頭上には星がきらめいていた。思いの他時間がたっていた
らしい。
ラドラスの4人の巫女・・。火、風、水、土。
遥か昔に滅んだ魔道王国ラドラスの末裔たち。
4人のうち、一番強大な力を持つのは自分だ。うぬぼれでも何でも
なく、エアはそれを単純な事実として理解していた。水と土の巫女は
まだ力に完全に目覚めてはいないが、覚醒の予兆は感じられる。
それぞれに優秀な力の使い手となりそうだ。
火の巫女・・。これは少し厄介なことになっている。
存在は感じるのだが、どうも妙なのだ。生命が感じられない。
まるで人形のような・・。だが、巫女の力ははっきりと感じられる。
火の巫女はずっと代替りしていないというが、代々のエアの記憶の
中に、一度火の巫女の力が完全に失われたのを感じたことがある。
そして闇の神器の力も感じられた。それからしばらくして、火の巫女の
力がよみがえったのを感じた。不可解だった。ウルカーンでは何か
よからぬことが起きていそうだが、エアはあえて探ることはしなかった。
代々の記憶の教訓により、自分が動くことは賢明ではないことを知って
いたからである。自分が動いたところで、世界が変わるわけではない。
エアはそのことを誰よりも痛感していた。そして何より、自分達4人の
巫女はこのままでいくと遠からず会うことになろう。それは恐ろしい
事実を意味する。滅びたとされるラドラスの復活・・。まだ時期は
わからないが、近いうちにラドラスは復活する。それははっきりと
予測していた。

 「未来がわかったところで、何になるのじゃ?」
エアは誰ともなしにつぶやく。遥か昔から、代々の「エア」が抱き続けて
きた想い。そう、未来を変えることはできなかった。自分にはできない。
だが・・。それが可能な者が現れた。自分の目の前に。
「うらやましいぞ、無限のソウルを持つ者よ。エレンディル、青い髪の娘。
そなたの未来はこのエアにさえもわからぬ。そしてそなたなら、あらかじめ
定められた運命とやらを打ち破ってくれそうじゃ。未来が読めずとも
それくらいはわかる。」
エアはおもむろに、城下近くの森に向かって歩き出した。無限のソウルを
持つ者がもうすぐそこにやってくる。そう予知したのだ。これくらいの
単純な未来ならわかる。エアはあの少女に会いたかった。不思議と自分の
心を晴らしてくれるのだ。まだ無邪気さが抜けないが、会うたびにソウルが
成長しているのが驚きだった。
「来るのがわかっていて会いに行くとは、面白味もないが・・・。
いつかは思いがけない出会いとやらを経験してみたいものじゃ。
さすれば、わらわはそこに・・・。」エアは口ごもり、続けた。
「わらわはそこに、希望を見出せるじゃろう。代々のエアが
決して見出せなかったもの、「希望」をな。願わくば、無限の
ソウルを持つ者、青い髪のエレンディルにそれを期待したい
ものじゃ。」
エアは、城下近くの森でエレンディルを待つことにした。
もうすぐやってくる。来るのがわかっていながら、エアは
楽しみだった。


希望・・いつかは、無限のソウルを持つ者が、エアに希望を
もたらしてくれるのだろうか。
絶望ゆえに従順な風の巫女エア。彼女の運命もまた、無限の
ソウルを持つ者を巻き込んで、大きく変わろうとしていた。
だが、彼女はまだ自分の運命を予知していない。
それを知るのは、もう少し先の話である。

(終わり)

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